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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)2626号 判決

原告  園敏市 ほか一名

被告 国

代理人 菊地健治 高橋廣 ほか三名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事  実〈省略〉

理由

一  請求原因(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。

二(一)  請求原因(三)1、同2のうち、係長が昭和五三年一二月二二日午後五時ころ、原告敏市の居房を訪れたこと、その際同原告が係長に本件原信書の問題となる部分を右信書をもつて具体的に示すよう求めたところ、係長が翌朝本件原信書を持参して、当該箇所を指示することになつたこと、同3のうち、翌二三日、午前八時三〇分ないし九時ころ、同原告の居房をおとずれた係長が本件原信書を同原告に返戻していつたこと、同4、5の事実の全部、同6のうち係長が原告ら主張の日時ころ、原告敏市に対し、本件発信不許可処分を告知し、本件信書の第九および第一〇枚目を返戻したこと、同原告が拘置所長に対し、昭和五四年一月四日、右処分理由の告知を求め、同月八日、同所長がその理由を同人に告知したこと、右告知された右不許可処分理由は、概ね原告ら主張の通りであること、および同7の事実は当事者間に争いがない。

右事実と<証拠略>を綜合すれば、以下の事実を認めることができる。

1  東京拘置所においては、受刑者の信書発受の許否を決定する権限は拘置所長にあるが、実際上、拘置所長自らが多数の信書を検閲して発受の許否を決定するのは不可能なため、管理部長が所長の授権に基づき信書発受の許否を決定し、その下に配置された保安課長、区長(東京拘置所を五区の処遇区に分け、各区に区長を配置してある。)、書信係が管理部長を補助して書信事務を行つている。

そして、受刑者が発信を希望する信書は、舎房の担当者から書信係に送られ、そこで検閲に付せられ、発信上問題がないと認められるものについては、本部区長、保安課長、管理部長の順次決裁を受けたのち、発信されていた。発信上問題にすべき点があると認められた信書については、受信を希望する受刑者の処遇区の係長、区長を通じて指導(問題となる箇所を指摘して受刑者による任意な当該箇所の訂正を行わしめること)を行ない、最終的には管理部長が信書の発信不許可あるいは信書の抹消について決定し、抹消の決定があつた場合は、書信係が抹消したうえ発信する。このような事務処理に要する時間は、数日にわたる特殊の場合のほか、大多数の場合は提出当日かその翌日に処理されていた。

2  また、東京拘置所においては、昭和四五年四月二日から、在監者の発信枚数について原則として七枚以内とし、それ以上の枚数を必要とする場合にはその理由を具体的に諸願箋に記載して提出させ、個別の許可にかからせる取扱いとする本件枚数制限を行つていた(未決収容者に対しては同五二年五月一日以後右の扱いを廃止した。)。

3  原告敏市が同五三年一二月二二日午前八時ころ、担当職員に提出した本件原信書は、同日中に同原告の舎房を管轄する第三処遇区の書信係の検閲に付された。同係では右信書の第一枚目から第三枚目までは原告梅世あての信書の体裁をとつていると認めたが、その余の第四枚目以後の部分は、冒頭「みなさん元気ですか?」で始まる形式をとつていて本件原信書の名宛人である原告梅世宛の信書とは認められないとして、係長を通じて右部分を原告敏市に名宛人である原告梅世宛となるように書き改めるべく指導することとした。

4  これを受けた係長は、同日午後五時すぎころ、原告敏市に対し、「本件原信書中三枚に通常の手紙と認められない部分があり、その部分は発信できない。その部分を除けば発信するがどうするか。」と尋ねたが、係長が本件原信書を所持していなかつたので、前記のように原告敏市の要求で右部分を係長が翌朝本件原信書を持参して指摘することになつた。

5  係長は、翌二三日午前九時ころ、原告敏市に対し、「前日の伝言は間違いで、第一枚目から第三枚目までは普通の手紙として発信を認めるが、その余については普通の手紙として認められないので、このままでは発信しない。」旨指導内容を示した。そこで、原告敏市が普通の手紙と認められない部分を具体的に指摘するよう求めたのに対し、係長は、本件原信書中の「みなさん元気ですか」という部分を例として指摘し、右信書を前記のように原告敏市に返戻していつた。

6  このため原告敏市は、本件原信書の第三、第四、第一〇枚目を書き直して、形式上第三者宛となつている部分を原告梅世宛にするなどし、その他数か所を訂正のうえ作成した本件信書を午後一時ころ、担当職員に提出した。

7  ところが、右二三日が土曜日、翌二四日が日曜日であり、また二五日(月曜日)には、管理部長が東京拘置所外での裁判の警戒打合せのため外出していて不在であつたため、本件信書を発信するための事務処理がその間中断していた。

そして、管理部長及び収容者の処遇事務をつかさどる保安課長は、同月二六日に至つて、本件信書を検討した結果、形式的には原告梅世宛に改められたものの、なお内容その他において拘置所の管理運営上不適当と認められる部分が存するので、原告敏市に右部分の訂正等を指導することとした。

8  これを受けて係長は、同日午後〇時四〇分ころ、原告敏市に対し、本件信書について、枚数超過は認めないので七枚に書き直すこと、訴訟の連絡については別途願出をすること、原告梅世に対して原告敏市に代わつて出すように依頼した年賀状の文言を同原告が具体的に指示するのは不適当なので書き直すこと、右年賀状に記載される同原告の住所を「東拘」とするのは不適当であるから書き直すことを伝えたが同原告がこれに応じないので、前記のように係長は、本件信書を持つて去つた。

9  係長は、翌二七日午後〇時二〇分ころ、原告敏市に対し、本件信書の第九及び第一〇枚目を返戻して右二枚については発信を認めない旨の本件発信不許可処分を告知した。その際、原告敏市は右不許可処分理由を尋ねたが、係長がこれを明らかにせず、所長に対する面会願を出してその理由を聞くように言つたので、同原告は、右二枚をつけたままで本件信書を発信するよう要求した。しかし、本件信書は、前記のようにその一部に抹消処分がなされて、同日中に原告梅世宛に発信された。

三  まず、原告らは、検閲について規定した監獄法五〇条、規則一三〇条、一三一条、一三六条の規定は、憲法一三条、一四条、一九条、二一条に違反すると主張するので、判断する。

自由刑の執行を受けている者(受刑者)は、監獄内に収容されて外部との自由な交通を遮断され、改善、更生のための処遇を受けている者であり、このような受刑者を多数監獄内に収容してこれを集団として管理運営するためには、監獄内の秩序を維持することが何よりも必要であるから、受刑者が、右のような拘禁目的と監獄内の秩序維持のため、その享有する基本的人権について必要最小限度の合理的制約を受けることは、やむを得ないところである。

監獄法は、受刑者の発受する信書について、特に必要と認める場合以外は親族以外の者との発受を禁止し(同法四六条二項)、また、同項によつて禁止されない信書についても「不適当と認むるもの」はその発受を禁止しており(同法四七条一項)、右「不適当と認むるもの」とは、受刑者の改善、更生及び監獄の管理運営上支障のあるものをいうと解されるところ、右各規定は、受刑者の拘禁目的と監獄内の秩序維持という目的に照して、受刑者の通信の自由に対する合理的な範囲の制限であり、憲法一三条、その他の憲法の規定に違反するものということができないと解するのを相当とする。

また、同法五〇条が信書の検閲その他信書に関する制限は命令を以つて定むる旨を規定しているのを受けて、規則一三〇条一項は、「在監者ノ発受スル信書ハ所長之ヲ検閲ス可シ」と規定し、規則一三〇条二項、一三一条、一三六条は、右検閲についての細則を定めている。右法規にいう「検閲」とは、信書の発受前にその内容と形式を事前に検査することをいうものと解されるところ、所長が受刑者の発受する信書を検閲することは、前記法四六条二項、四七条一項によつて信書の発受禁止処分をするかどうかを決定するうえにおいて必要、不可欠のことであり、前記検閲について定めた法規は、憲法一三条その他の憲法の規定に違反するものということができない。

したがつて、前記原告らの監獄法、規則の違憲の主張は、これを採用することができない。

四  本件原信書、本件信書の発信遅延について

(一)  前記二の事実関係によれば、以下のとおりのことが認められる。即ち、原告敏市が昭和五三年一二月二二日午前八時ころ提出した本件原信書は、当日中書信係の検閲に付され、その際右信書の第四枚目以後の部分が形式上原告梅世にあてたものにすぎないと判断された。これを受けて、同日午後五時すぎ右信書の書き直しを指導するため、原告敏市の居房を訪れた係長は、本件原信書中三枚に発信上不適当な部分のあることを告げたものの右信書を持参しなかつたので当該箇所を右信書で指摘することができなかつた。しかし、係長は、原告敏市の要求で翌二三日午前九時ころ右信書を持参して再び同原告をおとずれた際には、書信係の前記判断を右信書により具体的に同人に示してその書直しを指導し、これに応じて同原告が同日午後一時ころ本件信書を提出した。これにより先に指摘された形式上の不備は是正されたが、なお再度の検閲で内容その他において拘置所の管理運営上不適当と認められる部分があつたので、係長は、同月二六日午後〇時四〇分ころ右部分の訂正を同原告に指導したが、同原告がこれに応じなかつたので、翌二七日、本件発信不許可および抹消処分を経て本件信書が発信されたものである。

(二)  ところで規則一三六条は、「信書ノ検閲、発送及ヒ交付ノ手続ハ成ル可ク速ニ之ヲ為ス可シ」と規定して、監獄における検閲等の事務が迅速に行われるべきことを定めているが、受刑者の発受する信書の検閲は、その内容において、受刑者の改善、更生、監獄の管理運営上支障がないかどうかの検査のほか名宛人の確認、秘密通信文の有無の検索等、信書の内容上及び形式上の面について能う限り慎重かつ厳格にこれを検査することが要請されることはけだし当然である。

そして、受刑者の信書の発信手続において、書信係等の監獄職員が検閲の結果判明した不適当な部分を発信者に指摘し、その自発的な書き直しを指導することは、妥当な措置であるというべきであり、右指導その他の事由により、受刑者の提出した信書の発信が結果として遅延したとしても、発信遅延を是認し得る相当な理由のある場合には、右発信遅延を違法となしえないといわなければならない。

(三)  そこでこれを本件についてみると、本件原信書が拘置所職員に提出されてから本件信書が発信されるまでの間に、六日間を要しているが、その理由は、前記のように、本件原信書、本件信書には、書信係職員による検閲の結果、後記のとおり形式上、内容上において発信を許すことが不適当と判断される部分が少なくなく、また、その判断は必ずしも容易なものとはいえないこと、そしてこのような部分につき、原告敏市をして逐次当該箇所を訂正させる指導を行つたこと、また、前記期間中には、通常拘置所において書信事務を行なわない土曜日の午後及び日曜日が含まれており、かつ、信書発受の許否を事実上決定していた管理部長が他の監獄事務を行うため不在であつたため、書信事務が中断されたことによるものであつて、右書信事務の中断理由は、やむをえないものとして是認できるのみならず、右検閲にもとづく原告敏市に対する指導内容も、相当な範囲の事項に関するものとして是認し得るものといわなければならない。

(四)  ところで、規則一三六条の趣旨からすると、受刑者の発する信書についての指導は、監獄職員において当該信書を示しつつ不適当箇所を一括して指摘するなど、指導をできるだけ明確、迅速に行うよう努めるべきであることは、いうまでもない。本件においては、当初、係長が本件原信書を示さないで不正確な指導をした点、また、本件原信書については形式に関する訂正をうながす指導をしただけであつたのに、これを書き直した本件信書について内容等の訂正を含む新たな指導をした点において、原告敏市に対する信書の指導が必ずしも適切でなかつたと疑われる点がないでもないが、本件原信書及び本件信書の形式、内容に照すと、原告敏市に対する信書の指導が数次にわたつたことは、やむを得ないところであるといわなければならないし、また、当初、係長が本件原信書を示しつつ形式上の不備を的確に指摘していたとしても、これに後続する数次にわたつた信書の指導及び発信に至る経緯に照らせば本件信書が実際に発信された昭和五三年一二月二七日よりもそれほど早く発信されたとは認め難い。

(五)  そうすると、本件信書の発信が前記認定のような事由から本件原信書の提出より六日間を要したとしても、これを是認しうる相当の理由があり他に拘置所長が故意又は過失によつて、本件原信書、本件信書の発信を遅延させたことをうかがうに足る事情は認められないから、本件信書の発信が遅延したことをもつて違法であるとする原告らの主張は、採用することができない。

五  本件発信不許可処分について

(一)  まず、原告らは、本件枚数制限は憲法三一条に違反し、法律上の根拠を欠くものであると主張するので判断する。

受刑者の発受する信書に関する監獄法四六条二項、四七条一項の各制限、同法五〇条、規則一三〇条等による検閲が憲法に違反するものでないことは、前述のとおりである。

ところで、監獄内における書信事務に従事する監獄官吏の人員には一定の限度があり、多数の信書を迅速かつ慎重に検閲発受しなければならない関係から、監獄の長において予め在監者が一回に発信する信書の枚数を原則として一定限度に制限し、これを超えるものについては個別的な許可にかからしめることとする一般的取扱をなすことは、右枚数制限が、監獄内における書信事務の適切な運営を図るという目的に照して合理的な範囲内にあるものであるかぎり、受刑者の通信の自由を不当に侵害するものとはいえず、これを是認することができ、憲法三一条に違反するものとはいえない。

これを本件についてみるに、本件枚数制限は、前記の通り、受刑者の発信する信書のうち七枚を超えるものについて、その超過の理由を諸願箋に記載させてその旨の申出をさせ、これを個別的に審査して拘置所の許可にかからしめるという一般的取扱いである。そして<証拠略>によれば、本件枚数制限を設けた理由は、第一に、東京拘置所の書信担当職員の事務処理能力に限界があること、第二に、第一種郵便物の基本料金で発信できる重量が約便箋七枚であること、第三に、在監者一般の発信内容からみて通常必要とされる枚数としては十分であると判断されたことにあること、他の同様施設においても概ね七枚以内の制限を加えていることによるものであり、右制限は、未決在監者に対しては、訴訟上、被告人としての防禦権行使の全うを期するために昭和五二年五月以降廃止されたが、受刑者についてはその後現在に至るまで行われており、本件不許可処分がなされた同五三年一二月当時、東京拘置所においては、一一名の検閲にあたる書信係職員が、一日平均一九五二名の在監者の発信する一日平均一七八二通の通信の検閲に当らざるをえず、右職員一人当りが一日一五〇通前後の信書につき午後七時、八時ころまでかけて検閲事務を行わざるをえない状態であつたことが認められる。

右認定事実によると、東京拘置所において本件不許可処分当時本件枚数制限の取扱いをすることは、同拘置所内において受刑者の発受する信書の検閲・発受の事務を適切に運営するという目的に照し、合理的な範囲内にあり、受刑者の通信の自由を不当に侵害するものとはいえない。

従つて、原告らの本件枚数制限が法律上の根拠を欠く違憲無効な取扱であることを理由に本件発信不許可処分の違法をいう主張は、採用することができない。

(二)  また、原告らは、仮に本件枚数制限が許容されるものであつたとしても、これに基づきなされた本件発信不許可処分は、これを根拠づける理由がないから違法であると主張する。

<証拠略>によれば、本件信書が一〇枚になつたのは原告敏市の刑期が確定した経緯、同原告から原告梅世に対する年賀状発信の依頼、原告敏市が訴訟部長として参加している共同訴訟人の会に対する訴訟手続に関する連絡などを記載したことにあり、本件不許可処分において本件信書の第九及び第一〇枚目の発信が不許可とされた理由は、本件信書が本件枚数制限を超過しているものであり、本件諸願箋記載の理由をもつてしては、右超過は認められないと判断されたこと、右部分は、形式上は原告梅世宛であるが、なお実質上共同訴訟人の会宛で監獄法四六条二項の規定を僣脱するものとされたこと(監獄法四六条二項の解釈は後述する。)、本件信書の第九及び第一〇枚目は訴訟の連絡事項を含むもので、これについては別に受けるべき特別発信許可を受けていないことによるものであり、なお不許可となつたのが一〇枚中三枚でなく二枚に止つているのは、本件抹消部分を含めて七枚以内におさまつているものと判断したことによるものであることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、本件枚数制限によつて受刑者の発信する信書が七枚を超過する場合にその発信の許否を個別的に決する権限は、監獄法四七条第一項により拘置所長の裁量権に属するものであるところ、その具体的な処分が右裁量権の範囲を超えたものであるときには、もとより右処分は違法たるを免れないというべきであるが、以上認定の事実によれば、拘置所長の本件発信不許可処分における右判断は、前記受刑者の拘禁ないし検閲の目的に照らしても、拘置所長の裁量権に基づくものとして正当と是認しうるものであつて、何等拘置所長の裁量権の範囲を超えたものと認めることはできないから、右原告らの主張は採用することができない。

六  本件抹消処分について

(一)  原告らは、受刑者の発受する信書を抹消することは、監獄法五〇条、規則一三〇条にいう「検閲」に含まれないから、拘置所長の裁量権に属さず、本件抹消処分は、法的根拠に欠け、憲法一一条、一三条、一九条、二一条、三一条に違反すると主張する。

しかし、監獄法四七条一項は、受刑者の発受する信書につき不適当と認むるものの発受は許さない旨規定し、これが憲法に違反しないことは前述のとおりである。そして、右規定の趣旨からみると、拘置所長は、受刑者の発受する信書の全体を不適当と認めて発受を許可しないことのほか、右信書中不適当と認める一部分のみを削除、抹消することも許されると解することができる。そうすると、本件抹消処分は、法的根拠に欠けるものとも、憲法に違反するものともいうことができないので、前記原告の主張は採用することができない。

(二)  原告らは、拘置所長による信書の抹消が必要最小限度の範囲で許されるとしても、本件抹消処分は、右必要最小限度の範囲を超え、憲法一一ないし一四条、一八条、一九条、二一条、三一条に違反すると主張する。

1  そこで、まず、年賀状に関する部分の抹消処分を検討する。

<証拠略>によれば、本件信書は、形式上は原告梅世宛となつているが、まず本件抹消処分の対象となつた第二、第三枚目は、原告梅世に対し、第三者に対する年賀状差出し依頼と年賀状に記載すべき具体的文言の指示となつていて、これは信書の発受を原則として親族に限ると規定している監獄法四六条二項の趣旨を僣脱することとなり、発信を認めることが不適当であると判断されたので、同法四七条一項により右部分につき本件抹消処分がなされたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

監獄法四六条二項は受刑者の発受を親族に限つているが、右規定は、受刑者の拘禁の目的に照らし、単に信書の名宛人を親族以外の者とした場合(親族であつてもその者との信書の発受が右趣旨目的を著るしく阻害し不適当と認められる場合には発受を許すべきでないことはいうまでもない)のみならず、形式上の名宛人は親族であつても、実質その内容において親族以外の者への通信と認められる場合の信書の発受をも禁止する趣旨と解するのが相当であり、本件信書中の右年賀状に関する部分が形式的には原告敏市から同梅世にあてられた内容になつていても、その内容において同梅世が同敏市名義で同人の指示するとおりの内容を記載した年賀状を発信することを依頼するものであり、実質上親族以外の者への通信であると認められるから、これを右条項に実質的に違反する不適当なものとして抹消すべきであるとの判断のもとに、右年賀状に関する部分の抹消をなした本件抹消処分には、何等違法な点はないというべきである。

2  次に、点検闘争に関する部分の抹消処分を検討する。

<証拠略>によれば、東京拘置所では、朝夕在監者を点検する方法として、在監者を扉に向つて正座させて称呼番号を唱えさせる方法(正座点検)が行なわれていたが、原告敏市らを含む一部在監者は、点検の際正座させることを非人間的な処遇であると主張し、点検自体を拒否する態度をとり、原告ら一部在監者らが組織している共同訴訟人の会においてもこれを対監獄闘争の一つの大きな柱として、とり上げていたこと、この点検拒否を行つた旨の報告が在監者から外部に伝達された場合、外部組織がこれを共同訴訟人の会の機関誌である「全体会議」などの小冊子に掲載して公表し、更に他の在監者に伝達し点検拒否という監獄の紀律に違反する手段による対監獄闘争を拡大させるおそれがあると認めたこと、そこで監獄内の紀律、秩序維持という観点から、本件信書第八枚目の右点検闘争に関する部分を抹消する本件抹消部分をなしたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

受刑者の通信の自由が、監獄内の紀律、秩序の維持の点から必要最小限度の制限を受けることは、前記のとおりであるところ、右認定事実によれば、点検闘争に関する部分を発信した場合には、外部の共同訴訟人の会などを通じ、監獄内の紀律、秩序を乱す危険も十分予想されるというのであるから、点検闘争に関する部分の本件抹消部分は何等違法なものということはできない。

以上のとおりであるから、原告らの本件抹消処分が拘置所長の裁量として許容される必要最小限度の範囲を超えた違法な処分である旨の主張は採用することができない。

七  結論

以上の次第であるから本訴各請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 黒田直行 桜井登美雄 長秀之)

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